男女間(ときに女子同士)のいびつな純愛を、柔らかく繊細なタッチで描いてきた漫画家・横槍メンゴさん。累計約200万部を突破し、2017年にはアニメ化もされた代表作『クズの本懐』を始め、若い読者を中心に支持を集め続けています。そんな彼女の2匹の愛猫「るったん」と「歌子」ちゃんは、ともに動物保護団体のシェルターから迎え入れた猫だそうです。複雑な経緯を辿った愛猫たちとの出会い、保護猫たちが置かれている現状について感じることなど、今回たっぷり語ってくださいました。前後編に分けてお届けします。

 

るったん。7才のメス。本名の「ルーシー」は保護主さんが付けた名前

 

福島で生まれた「るったん」。新潟、栃木を経由して、東京の横槍さんのもとへ

 

――まず最初に迎えた「るったん」は、もともと福島県内の保健所に収容されていたそうですが、どうやって出会ったのでしょう。”馴れ初め”を教えてください。

 

横槍 るったんは、母の知人が運営していた栃木の個人シェルターから、わが家にやって来ました。東日本大震災で被災したノラの母猫が産んだ子猫で、もともとは新潟の保護団体が保健所から引き出したそうです。殺処分までの期限が、あと1日に迫っていたと聞いています。

 

るったんを迎えることになったのは私がペット可の物件に引っ越したタイミングで、里親募集の写真の面白い顔を見てすぐに決めました。「絶対この子がいい!」とかは考えずに、1匹でもシェルターから預かれたらいいなって。でも実際に会ってみたら、すごくスリムで、ただの美少女(笑)。こんなきれいな子でいいのかなと。今はアザラシのような体型になりましたけど。

 

あだ名いろいろ。るっちゃん。モフチャー。モッキュ。モフタンetc…

 

「耳の生えたアザラシ」

 

シェルター時代のるったん(左)

 

右がるったん。同じリンクスポインテッド(シャムトラ)の猫と仲がよかったそう

 

横槍 元ノラなのに、飼い始めから人懐っこいんですよね。家に迎えたその日から、私の布団でいっしょに寝て。私でも、来客でも、人がいればずっとそばにいる。べったりで犬みたい。漫画家は猫を飼っている人が多いですし、実家で猫を飼ってきた経験からも、適度にほっといてくれるかと思ったんですが……正直、最初は「こんなにかまわないといけないの!?」というくらいで、おかしくて。仕事中も手を出してきたり。でも抱っこは、るったんの甘えキャラ的には意外と喜ばない(笑)。

 

警戒心ゼロ。取材中も離れずにそばにいてくれました

 

貰い手のいない老猫を探していたら、多頭飼育崩壊の現場で生まれた「歌子」ちゃんに出会う

 

――もう1匹の歌子ちゃんは、るったんとは別の保護ボランティアさんの元から迎えたんですよね。どんな経緯があったのでしょうか?

 

横槍 次は10才以上の老猫を迎えようって考えていたんですよね。るったんが想像を超える飼いやすさだったので(笑)、今度は貰い手のいなそうな猫を飼おうと。子どもの頃から猫と暮らしてきた“猫経験者”だし、「子猫から迎えたい」というのもなかったんですよね。ネットで老猫の里親募集を探して見つけたのが、個人ボランティアさんがシェルターで保護していた「メグロ」ちゃん。もとの飼い主さんが亡くなってしまって引き取った猫でした。

 

でも面会に伺うと、メグロちゃんは持病の悪化で動けなくなっていて……。環境が整っている今の状態から移さないほうがいいね、ということになりました。そこで他の子を見せてもらっているときに気になったのが、ケージの隅っこで大きな猫に隠れて怯えていた猫。姿勢を平べったくして。それが歌子でした。聞くと、都内の多頭飼育崩壊(※)の現場からボランティアさんが引き取ったうちの1匹で、すでに妊娠、堕胎を経験していました。警戒心が強く、譲渡先が決まらないまま1年以上残っていたそうで……。

※不妊・去勢手術をしないままペットを過剰飼育させて、面倒を見切れなくなる状態。飼い主は困窮し、生活が成り立たなくなることも。

 

その日は帰りましたが、どうしても気になって……。同行してくれた人も、いっしょに考えてくれて。家に着いてから電話で、歌子を引き取りたいと伝えました。

 

以前に譲渡会に参加してから、怯えて10日近くほぼ食べなくなってしまったそうなので、最初は不安もあって。うちに来ることで健康を害するほどのストレスになるようなら諦めてお返しなくてはと思ったんですが、2週間のトライアル期間(※)で、るったんに懐いてくれました。るったんも最初は嫉妬からかシャーシャー言ってましたが、ある日2匹でくっ付いて寝ていました(笑)。

※先住猫と新しく迎える猫との相性などをチェックするための”お試し期間”。問題がなければ、正式譲渡に。

 

歌子ちゃん。6才のメス

 

怖がりなので写真は撮らず、横槍さんにお借りしました

 

 

「猫たちとの、嘘のない、温かさしかない関係で充電しないと、外の世界でがんばれない」

 

――複雑な経緯を辿って、迎え入れた2匹。どんなことを与えてくれる存在でしょう?

 

横槍 ……何だろう、難しいな……。(しばらく考えてから)人が与えてくれないものを与えてくれる、って思っています。裏切らないし、差別もしない。

 

人よりも動物ファーストの人は「逃避している」と言われやすいですが、私の場合、人と向き合う力を動物でチャージしているという感じです。人間社会が辛くて……(笑)。猫たちとの、嘘のない、温かさしかない関係で充電しないと、外の世界でがんばれない。

 

自分でいうのも難ですが、私はふだん外では明るい感じのキャラだと思います。でも、猫がいないと保てません(笑)。初めて会った人と話をするときも、「すごい元気ですね!」「明るいですね!」と言われるけど、根がそうじゃないのは漫画でわかってください(笑)。カバーしてくれているのが猫なんです!

 

「嘘のない、温かさしかない関係」

 

 

――猫がいないと、漫画も描けない?

 

横槍 描けないですね! 暮らしとか、生きることに、猫が必然すぎる。10才の頃から猫といっしょで猫がいない人生の方が短いし……。いない間どうやって生きてたんだろう。猫がいれば、単純に働かなきゃ、養わなきゃ、という気持ちにさせてくれる。サボる、働かないというのを、自動的に排除する理由になってくれています。

 

 

(文・撮影本木文恵

歌子ちゃんの写真は、横槍さんご提供

取材日:2018年8月21日

 

後半に続きます。

「若い読者に、保護猫を迎えることがかっこいいと広めたい」漫画家・ 横槍メンゴさん(2)

 

 

横槍メンゴ(よこやり・めんご)

漫画家。イラストレーター。1988年生まれ。2009年『マガジン・ウォー』(サン出版)でデビュー。『君は淫らな僕の女王』岡本倫・原作/集英社)で注目を集める。アニメ化した『クズの本懐』スクウェア・エニックス)ほか、『はるわか』双葉社)、『めがはーと』(小学館)など。『週刊ヤングジャンプ』(集英社)で月1回連載中の『レトルトパウチ!』現在、1〜6巻まで刊行。で連載中の『レトルトパウチ!』、現在、1〜6巻まで刊行。

*Instagram:@yorip
*Twitter:@Yorimen

 

★歌子ちゃんの出身シェルターはこちら

「猫のための小さなお家」
*Instagram:@nekoouchi
*Twitter:@nekonouchi
※るったんの出身団体は、現在活動をお休み中です。