前半の記事から続きます。

 

被災地で繁殖した子猫の1匹で、保健所に収容されたのち保護団体によって引き出された「るったん(本名:ルーシー)」。多頭飼育崩壊の現場からレスキューされた「歌子」ちゃん。そんな2匹の元保護猫を、漫画家・横槍メンゴさんは、「シェルターから1匹でも迎えられたら」という想いで飼い始めたことを話してくださいました。

 

後半では、保護猫を迎える選択をした理由や、猫の保護活動やボランティア団体について感じていること、そして若い読者に支持される漫画家として保護猫たちのために発信していきたいことなどをお聞きしました!

 

るったん

 

歌子ちゃん(写真提供:横槍メンゴさん)

 

両親の影響で、ナチュラルに培われた動物への意識

 

――猫を購入するのではなく、保護猫を迎える。この選択肢は、横槍さんにとって自然なものだったのでしょうか?

 

横槍 子どもの頃から飼っていた最初の猫も元ノラだったし、「猫を迎えるなら保護猫」というのがふつうだったんです。私が10才のときに、近所に母猫に育児放棄されて激しく鳴いていた子猫を見つけて。でもうちは転勤族だったので、飼うのは難しかったんですよね。猫が好きな母は治療だけでも……って動物病院に連れて行ったんですが、片目が癒着して見えなくなっていて手術に10万くらいかかると。専業主婦だから自分でお金は出せないだろうし大丈夫かな……と思ったんですが、父に話したら「手術代を出す」という選択を、すっとしてくれたんです。激しい動物好き、というわけでもないのに。手術で治してあげたら可愛くて、しょうがないからペット可の住宅に引っ越して、そのまま20年(笑)。

 

今、実家には、るったんを迎えた1年前に同じ団体から迎えた猫と、また別の保護団体さんから迎えた猫の2匹がいます。私は育った環境がよかった。「動物に対する意識が特別高い親」という感じでもないのですが、ナチュラルに私も同じところに向かわせてくれたんだと思います。

 

でも、知り合った方に自分の猫の話をするとき、流れでシェルターから迎えたことを言うと「そんなことしてるんだ」「偉いね!」と言われることがあって。るったんの見た目がシャム猫っぽいから猫種を聞かれることも多くて、「雑種だよ」って答えると、「え!」って驚かれる。「あっ、猫の種類が大事なんだ……」って、だんだん気になりだして。

 

 

――猫を飼う=保護猫を迎えるという感覚が自然と身に付いていたけど、それが「当たり前」というわけでもないことに気づいたと。

 

横槍 そうですね。そんなきっかけもあって、保護活動や動物愛護のことをよく考えるようになりました。とはいえ、動物の問題はデリケートで発言しにくいところもある。SNSのやりとりで「ペットショップ反対!」と露骨に伝えれば争いになってしまうし……。お会いした方にもこういう話するのって勇気いりますよね。「動物が好きな人が好き」とか言うだけでも、「すごい優良な人間みたいじゃないですかっ(笑)」と言われることもある。揶揄られるんですよね、動物の話は。動物愛護というと、一部の行き過ぎた“過激”な印象になっているんだろうなと。

 

場の空気を壊さないように、どこまで出していくかっていうのも難しい。それでも届く範囲で伝えたいというのはあって。1匹目をペットショップで買って迎えた友達に、勇気を出して、でも滑らかなテンションで、「保護猫にも目を向けて欲しいな」ということを伝えたんです。そしたら2匹目は保護猫を迎えてくれたんですよ。2匹目で、という方は多いです。ほかに選択肢として知らないだけかもしれない。最初はどこかにノラ猫は性格が難しく血統書のある“ちゃんとしたとこの子”じゃないと懐かない、というイメージがあるのかもしれない。でも、関係ないんだと気づけば「じゃあ次は保護猫」って思うんじゃないかな。

 

猫グッズたくさん

 

 

「自分が世間から必要とされている分野で、できることをしたい」

 

――今回、取材依頼にご快諾いただいたメールのお返事でも、「保護活動に関わっている方のことを本当に尊敬しております。何か力になれたらとふだんから強く思っている(以下略)」と熱いメッセージを書かれていました。猫の保護活動をどんな風に感じているのでしょうか?

 

横槍 実際動かれている方が、一番すごいと思ってます。歌子の出身シェルターも、譲渡につながりにくい老猫を中心に引き取っているし、いつもお忙しそう。

 

本当は、動物の環境改善につながることを自分でも動いてしたいんですよね。保護猫のお世話を手伝ったり、捕獲をしたり。けど、今はその時間で漫画を描いて、お金を稼いで、寄付をすることにしています。大きい団体よりも、個人で運営のシェルターを中心に、調べて見つけたところから。るったんや歌子も小さいシェルターの出身なので、私にとってはそのほうが身近で。

 

夜るったん(写真提供:横槍メンゴさん)

 

2匹でちゅ〜る(写真提供:横槍メンゴさん)

 

――横槍さんは青年誌をおもな活動の場として恋愛ものを描いてきましたが、漫画で猫のことを描きたいという想いはあるのでしょうか?

 

横槍 一度だけ「スクールゾーン」という短編(『めがはーと』に収録)で、ノラの子猫が亡くなるエピソードを描きました。担当の編集さんが私が好きなものを理解してくれて、「動物が登場する回をやってみませんか?」って。犬を描くつもりで資料も集めていたんですけど、ネームの締め切りのときに、近所の駐輪場で亡くなっていた子猫がいて……。自転車でひいてしまった方が区役所に電話していましたが、亡骸の引き取りって一晩かかるんですよね。布をかけられたまま横たわっていて。明日の朝に引き取ってもらえるといいなと思ったけど、雨も降っていたし、気になって全然眠れなかった。夜中に何度も見に行って……。そういう状況でネームを描きました。

 

 

「スクールゾーン」(『めがはーと』より)

©️横槍メンゴ/小学館

 

横槍 漫画の中に、ナチュラルに動物のことを入れるのってすごく難しいです。斉藤 倫先生(※)のことを尊敬しています。『路地裏しっぽ診療所』『ノーにゃんこ ノーライフ  〜僕らの地域ねこ計画~のような作品が描けたら……と強く憧れます。でも、私の作風と「保護猫活動」的なイメージって剥離してる。いきなり自分の仕事の領域で保護猫に直接関わることをするんじゃなくて、今は自分が世間から必要とされている分野でできることをしたいかなって。

 

※漫画家・斉藤 倫先生のことがよくわかるインタビュー記事→ 「いろいろな猫と関わって」斉藤 倫(「ねこねこ横丁」/ホーム社)

 

 

 

「若い子の間で『保護猫を飼った方がかっこいい』っていう風に持っていけたらいいなって

 

――横槍さんが「世間から必要とされている分野」で、目指したいことは?

 

横槍 保護猫を迎えた芸能人の方もいらっしゃいますが、私が知る範囲ではペットショップから迎えた猫の飼育率は高い。先輩の影響や横のつながりで、そうなっちゃうんでしょうね。私の作品の読者さんは、10代後半から20代半ばくらいの方が多くてファン層がかぶるので、若い方たちに保護猫のことも知ってもらえたらと思っていて。Twitterやインスタで過剰なくらい猫の写真を発信してるから、サイン会に来てくれるのも猫好きな方ばっかり。ほとんどの方が「るったんと歌子応援しています!」と言ってくれます。

 

熱い気持ちじゃなくていいので、流行りの純血種がなんとなく可愛いという感覚と同じように、若い子の間で「保護猫を飼った方がかっこいい」っていう風に持っていけたらいいなって。”過激な動物愛護の人”だと認識されたら、言いたいことが全然伝わらない。「みんなのしたいおしゃれな生活の延長でも、保護猫と楽しく暮らすことはできる!」って、伝えていきたいんです。

 

 

(文・撮影本木文恵

取材日:2018年8月21日

 

横槍メンゴ(よこやり・めんご)

漫画家。イラストレーター。1988年生まれ。2009年『マガジン・ウォー』(サン出版)でデビュー。『君は淫らな僕の女王』岡本倫・原作/集英社)で注目を集める。アニメ化した『クズの本懐』スクウェア・エニックス)ほか、『はるわか』双葉社)、『めがはーと』(小学館)など。『週刊ヤングジャンプ』(集英社)で月1回連載中の『レトルトパウチ!』現在、1〜6巻まで刊行。

*Instagram:@yorip
*Twitter:@Yorimen

 

★歌子ちゃんの出身シェルターはこちら
「猫のための小さなお家」
*Instagram:@nekoouchi
*Twitter:@nekonouchi
※るったんの出身団体は、現在活動をお休み中です。