2018年6月18日午前に発生した大阪北部地震。SNS上では、被害を受けた地域に暮らす飼い猫たちの食欲不振や行動の異変、それを心配する飼い主さんの声が多数投稿されました。

 

刺激に対する感受性が強く、環境の変化に弱い動物である猫にとって、予想のつかない事態である「地震」は、代表的なストレス要因のひとつ。とくに今回のような、命に危険を及ぼすほどの規模の地震ではパニックを起こすことも多く、大きな精神的ダメージを受けている猫もいると考えられます。

 

こうした状況で、今、飼い主さんがしてあげられることとは? 異変のサインや受診の目安と併せて、猫専門病院の「東京猫医療センター」(東京都江東区)服部 幸院長にお話を聞きました。

 

 

地震による「急性ストレス障害」がおもな原因

 

――被災地の飼い主さんからは、「ごはんを食べてくれない」「狭いところに入って出てこない」など、愛猫の行動や体調の変化が報告されています。

 

服部 多くは、地震による強い揺れ、つまり激しいストレス体験をしたことによる「急性ストレス障害(ASD)」によるものでしょう。

 

猫の急性ストレス障害で見られる異変の例としては、

・食欲不振 

・不安そうな声で鳴く 

・粗相する 

・怯えて隠れてしまう 

・攻撃的になる、もしくは塞ぎ込んでしまう

・自傷行為をする(自分の毛をむしったり、ひどい場合は噛むことも)

・毛づくろいが増える(場合によっては脱毛するほど)

・嘔吐や下痢などの消化器症状 

・膀胱炎

などがあります。

 

病的な症状や、1日半以上の絶食は受診を

 

――急性ストレス障害の兆候が見られたら、どう対応すればいいでしょうか?

 

服部 基本的には、例えば以下のような病的な症状が見られたら、受診するべきだと思います。

 

・何度も同じところをなめることで脱毛したり、出血している

・嘔吐や下痢をするようになった

・膀胱炎の兆候がある(トイレに行くのにオシッコが出ない、トイレで悲痛な声で鳴く、何度もトイレに行く、血尿が出る など)

 

1日半(36時間)以上何も食べない状態が続く場合も、受診したほうがいいでしょう。とくに太っている猫の場合、絶食状態が続くことで肝臓に脂肪がたまる「肝リピドーシス(脂肪肝)」という病気にかかる恐れがあります。

できるだけ、いつも通りに接して

 

――病的な症状がない場合の自宅での接し方は?

 

服部 あくまでも個人的な感覚ですが、非常時だからと特別にかまうよりも、いつもと同じように接してあげるのがよいと思います。かまわれるのが好きな猫であれば、いっしょに過ごす時間をつくってあげてもいいですが、そうではない猫には逆効果でストレスになってしまいますので。

 

飼い主さんが心配そうにいつもと違う態度をしていると、猫にとってはそれ自体が「環境の変化」となり、より不安になる可能性があります。心配や不安があるかと思いますが、できるだけ自然に接してあげるといいでしょう。

 

また、普段以上に猫の様子をよく観察してあげるようにしてください。「いつもよりも水を飲まない」など、いつもとどのようなところに変化があるのかをチェックすることは大切です。

 

猫の「見た目」と「行動」に、いつもと違うところがないか、よく観察を

 

地震のストレスとは関連のないケースにも注意

 

――今後のケアについて、気をつけたほうがいいことは?

 

服部 急性ストレス障害は一時的なショックによるものですが、人でいう「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」のような例は、猫でも報告されています。命の危機に直面した体験によってトラウマが生じ、その出来事から1ヶ月以上経っても、似たような状況下でストレス反応を示します。

 

例えば小さな揺れの地震であっても毎回隠れて怯え続けたり、食欲不振になるなど、日常的に生活に支障がある場合は、フェロモン剤による治療等、獣医学的な対応が必要になりますので、受診が必要です。

 

また、ひとつ気をつけてほしいこととしては、地震などの大きな出来事があった後に猫が体調を崩したとしても、じつは別の病気がたまたま同じ時期に発生していた、ということもよくあります。東日本大震災の時にも、地震の後に嘔吐が増えたからストレスのせいだと思っていたら、腸のガンだったという猫がいました。

 

今見られるすべての症状が地震のせいとはかぎりません。「地震のストレスで一時的に体調が悪いだけ」「時間が経てば治まるだろう」と認識することで受診を先延ばしにしてしまうことがありますが、その点は十分注意してください。

 

(文/本木文恵

取材日:2018年6月21日(2020年5月6日改)

 

服部 幸(はっとり・ゆき)

猫専門病院「東京猫医療センター」(東京都江東区)院長。

「SyuSyu CAT Clinic」で院長を務めたのち、アメリカのテキサス州にある猫専門病院「Alamo Feline Health Center」にて研修プログラム修了。2012年に東京猫医療センターを開院。2014年より「JSFM(ねこ医学会)」理事。所属学会は「ISFM international society of feline medicine」。

イラストでわかる! ネコ学大図鑑』(宝島社)、『ネコの看取りガイド』(エクスナレッジ)、『猫とわたしの終活手帳』(トランスワールドジャパン)ほか、猫に関する著書多数。