母猫とはぐれて彷徨っている子猫、捨てられた猫、感染症にかかり弱っている猫。放っておけば命を失いかねない猫たちに、ある日、突然、出会ってしまったら。

 

そんな”運命の日”に助けになる手引書、『野良猫の拾い方』監修:東京キャットガーディアン、発行:大泉書店)が、2018年4月に発売されました。表紙はすっきりモノトーン。タイトルもシンプル。写真もサブタイトルもない。実用本らしからぬ装いながら、ページをめくれば、たくさんのハウツー写真と、ノラ猫を家族として迎え入れるためのきめ細やかなアドバイスが散りばめられています。

 

企画から、全ページの構成・執筆まで担当したのは、編集者&ライターの富田園子さん。元ノラの7匹の猫たちと暮らす愛猫家です。これまでに猫を含めて数多くのペット本の制作に携わってきた彼女が、「集大成!」というほど情熱をかけて制作にあたったというこの本。企画の経緯から編集裏話まで、富田さんご本人にインタビューしました。

 

 

富田さんと、愛猫7匹中3番目に迎えた愛猫のマコくん

 

 

――猫の「飼い方」の本はたくさんありますが、「拾い方」、つまり猫の保護の仕方を具体的に説明した本は初めて手にしました。「拾い方」で1冊にまとめた理由は?

 

富田 猫を飼い始めるきっかけには、子猫を“うっかり”拾って、ということが多いですよね。前準備もできない。でも、ちょっとしたことを知っているだけで、救える命があるんだって伝えたかったんです。

 

私自身の経験ですが、猫を初めて保護したのが、18年前。今もわが家にいるチビちゃん(18才)です。そのときは猫の知識がなくて、6月に保護して、夏になったらノミが大繁殖! そのときの動物病院の先生は、「ノラ猫を拾ったときにやるべきこと」は、何も教えてくれなくて…。 でも次々に保護していくうちに、ミルクのあげ方や寄生虫の駆除、血液検査、ワクチンなど、必要なことはちょっとずつわかってきました。

 

そんな実体験もあって、以前から「拾い方」をくわしく紹介したかったんですが、猫の飼育書をつくる場合、ノラ猫についての解説は全体のバランスからいっても数ページが限度。であれば、「拾い方」だけで本を出したい!と、出版社に企画を持ち込みました。

 

2番目に迎えた丸顔のサビ猫、ちゃー坊ちゃん。乳飲み子のときに富田さんが保護

 

――『野良猫の拾い方』という、シンプル過ぎるくらいのタイトルも印象的です。どうやって決まりましたか?

 

富田 版元の編集者の方と話しながら、「野良猫」「拾い方」という組み合わせになりました。

 

たとえば猫が好きな人、よく知っている人からすると、「拾い方」よりも「保護」のほうがよく使う言葉だと思うんですよね。『元ノラ猫の飼い方』や『飼い主がいない猫を保護する方法』のほうがしっくりくるのでは、と。ただ、この本は、好きの度合いと関係なく、猫と出会ってしまった人が読む本。あまり猫のことを知らない人も含めて、誰にでも直感的にわかりやすいことを優先しました。

 

 

――捕獲器のくわしい使い方から、トリモチにべったりくっついた子猫を保護したときなどの限定的なシーンの対処法まで載っていますね。

 

富田 おそらく捕獲器の使い方まで、写真付きで載せたのはこの本が初めてでしょうね。

 

ハウツーの細かい解説は、保護団体「NPO法人東京キャットガーディアン」の代表・山本葉子さんに取材し、いただいたアドバイスを中心にまとめています。東京キャットガーディアンは、これまでに約6000匹もの保護実績がある、猫を「拾う」プロ中のプロということで、監修をお願いしました。

 

 

――個人的には、「弱った猫の栄養補給」が興味深かったです。よく物語上の演出で「捨てられて弱っている子猫に牛乳を飲ませる」といったシーンがありますが、猫によっては成分を消化し切れずお腹を壊す恐れもありますよね。この本では薬局で買えるブドウ糖を、なければコレかコレ、与え方はこう〜と、理由や注意点まで解説していて。この本のこうした説明のくわしさは、本当にやるべきことと、何となくのイメージとのギャップを埋めてくれる印象があります。

 

富田 栄養補給の方法も、山本さんからお聞きしたものです。ほかに、低体温に陥った小さな子猫の応急処置「湯煎(ゆせん)」も山本さんのアイデア。猫の体を濡らさないでじっくり温めるので力の消耗を防げる、「知っていることで命を救える」知識だと思います。

 

「湯煎」。厚手のビニール袋に子猫を入れ、38℃くらいのぬるめのお湯を張った洗面器へ。タオルをいっしょに入れると◎(写真は東京キャットガーディアン提供)

 

 

自身の保護活動の体験から得た知識も、本に反映

 

――富田さんご自身も、ノラ猫の保護活動をしているそうですが。

 

富田 3年前にフリーランスに転向したんですが、日中在宅することが増えて、ちょっとした買い物のときなんかに猫を見つけてしまうようになったんです。そしたら家に3匹だった猫が、あれよあれよと7匹に! 「できるだけ救ってあげたい。けど、これ以上は体調管理が行き届かなくなる」という限界点に達したので、次に猫に出会ったら里親を募集しようと。地域猫活動で有名な団体の方にコンタクトをとってアドバイスをいただき、ノラ猫の保護やTNR(※)を始めました。個人の活動なので本当に小規模ですが、自分の街にいる気になる猫だけでも何とかしたいと思い、続けています。

 

※ノラ猫の繁殖を防ぐため、捕獲器で捕まえ(Trap)、避妊・去勢手術を施し(Neuter)、もといた場所に戻して(Return)、地域猫として見守る取り組みのこと

 

 

――ノラ猫たちを保護・譲渡してきた経験も、この本に反映されていますか?

 

富田 個人的な想いで言えば、3章の「馴らす」は、とくに気合を入れてつくりました! 私が譲渡の際に里親希望の方へお伝えしている内容も入れていて。

 

正式譲渡の前のトライアル期間中に「1週間経っても人馴れしないから猫を返したい」という方もときどきいらっしゃいますが、猫の「馴らし方」をただ知らないケースも多いんです。新しい飼い主さんや環境への適応のさせ方というものがある、ということを知っていただけたら。

 

人馴れしてない猫には、ケージが必要です。「保護団体からケージを勧められたけど、猫を入れるのはかわいそうだから里親を断念した」という意見もありますが、猫にとっては見知らぬ室内に放り出されるよりも、ずっと安心できる居場所になります。猫が隠れて見つからなくなるリスクも回避できますしね。金額がネックな方には、使わなくなったら畳んでしまえる、3000円くらいで買える物をオススメしています。

 

 

直接触れない猫に使える、孫の手を使った人馴れの方法。(写真は富田さん提供。保護した猫に実際に試したときのもの)

 

ケージから出してご対面。猫社会のルールにのっとって、まずは先住猫に保護猫のおしりを嗅がせ、優位に立たせてあげます(写真は富田さん提供)

 

 

――「殺処分ゼロ」が掲げられ、猫の殺処分数が年々減少する一方で、猫たちを愛護センターなどから引き取ったり、ノラ猫を保護して欲しいという相談を受ける保護団体の負担が大きくなっているという指摘もあります。「野良猫の拾い方」の知識が広まれば、保護団体に頼らずに自分で試してみたい…という人も増えるのではないでしょうか?

 

富田 私の感覚でも、保護団体に「猫を捕まえて!」と依頼する人の中にも、「自分でできることはしたい」という方はたくさんいます。こういう方は、やり方さえわかれば自分でやれるのかな?という気がしています。

 

たとえば以前、ちょうどうちではこれ以上お世話できない飽和状態のときに、「ノラ猫を保護したから頼めないか」と相談を受けたんですね。そのときは、申し訳ないけど…と、お断りしたんですが、ノラ猫を保護したあとに行うべき寄生虫駆除など一通りの説明はさせていただいて。数カ月後、うちで少し余裕ができたのでどうなったかなと思ってご連絡をしたら、すでにご自身で里親さんを見つけて、譲渡までしていたんですよね。

 

本の巻末でも山本さんがおっしゃっていますが、街で暮らすノラ猫たちのうち、気持ちよさそうな顔で寝て、美味しいごはんをもらって、丸々といい体型でいるのは、ほんの一部。もしくはラッキーな一時期のことなんです。私の願いは、外にいる猫が減ること。助けを必要とする猫と出会ってしまった方が「野良猫を拾う」ことで、1匹でも多くの命が救われたら嬉しいです。

 

(文・撮影/本木文恵)) 

取材日:2018年5月14日

 

 

富田園子(とみた・そのこ)

編集者&ライター。日本動物科学研究所所属。幼い頃から犬・猫・鳥など、つねにペットを飼っている家庭に育つ。 編集の世界にて動物の行動学に興味をもつ。猫雑誌の編集統括を8年務めたのち、独立。  哺乳類動物学者の今泉忠明氏に師事。現在は7匹の猫と暮らす。東京在住。おもな著書に『マンガでわかる犬のきもち』『マンガでわかる猫のきもち』『ねこ色、ねこ模様』『野良猫の拾い方』

HP:富田園子ホームページ

 

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