台風19号による豪雨等自然災害による被害の犠牲となられたみなさまに哀悼の意を表しますとともに、被害を受けられたみなさまに心よりお見舞い申し上げます。動物たちへの被害も少しずつ明らかになっています。被災地の復興が1日も早く進むよう、お祈りいたします。
2019年10月12日から13日にかけて広範囲にわたり豪雨を降らせ、甚大な被害もたらした台風19号。
ハザードマップ上、家屋が水没する恐れがある地域に住む私も、避難所へ向かいました。生まれて初めての避難は、猫2匹を連れた「同行避難」。自宅から離れた先に幼い子供も連れての避難は大変でしたが、それでも、「命だけは守れる場所に家族と愛猫を連れて行けた」という安心感は大きく、ペットOKの避難所のありがたさを噛み締めました。
一方で、SNSの投稿を追うと、ペットNGで避難所に入れなかったケースも散見されました。ペットたちを連れて避難できず、置いていくこともできず、不安に過ごした飼い主さんたち。その無念を思うと胸が痛み、やりきれない想いがあります。今回の台風は、「居住地によるペット防災の格差」という大きな課題を浮き彫りにしたように思います。
では、災害に見舞われた飼い主さんと愛猫の誰しもが、安全に避難できるようにするためにはどうすればいいのでしょうか。自身の体験や、過去のペット防災の取材で見聞きしてきたことも交えながら、行政と飼い主さんと、それぞれができることはないかうんうん唸りながら考えてみました。長いですが、それでも足りない部分があるかと思います。ぜひみなさんもいっしょに考えてください。
*猫の媒体なので猫のことを中心に書いていますが、犬やそれ以外の愛玩動物の飼い主さんもぜひお読みください。
避難所の情報収拾は、最優先に
まず、自分の体験から。先月、防災月間に行われた大きな防災訓練に参加し、災害対策本部のペット防災に関わる部署と獣医師会の支部の合同ブースで、同行避難の説明を聞いていました。このとき「いざというときにはいっしょに避難できる」と把握できたことに安心。しかし、台風が接近する中、ハザードマップを見直すと、洪水時の避難先が最寄りの学校ではないと気づき焦りました。念のため12日の朝に開設された指定避難所に連絡し、屋内でOKと確認。「避難準備」発令に合わせ、向かいました(結果的には、私たちが避難したのちに最寄りの学校も避難所として開放されました)。
洪水に対応した3階以上の避難所は数が少なく、低い階は使えないことから全体の避難スペースは限られています。実際、別の区では同行避難を推奨しながらも、今回の台風=風水害では、ペットの同行避難NGとなったケースも多数報告されています。飼い主さんは、ぜひ次の災害が起きる前に以下の確認をしてください。
□大雨洪水等の風水害でも、同行避難はOKか?
□避難先はどこか?
□避難先までのルートは?
□(自治体から特別に求められ)持っていく必要があるものは?
10月17日に行われた「第52回中央環境審議会動物愛護部会」では、環境省から「同行避難ができる環境を整えていくことが行政として必要」「ペットを受け入れられる施設を相談する窓口を明確にすることが大切」といったお話がありました。行政の側からも、飼い主さんや避難所の担当者に対して情報をわかりやすく提供していただけたら、と思います。
同行避難を求める声を届ける
それでも、もし事前の確認で「同行避難NG」だった場合は?
過去に取材したペット防災の専門家は、何を持ち出すか以上に、各家庭に合ったシミュレーションの重要さを強調していました。とくにすすめていたのは、(可能であれば猫を連れて)地域の防災訓練に参加すること。
乳幼児や高齢者らの「災害弱者」がその地域に多いかは自治体が把握できても、猫の飼い主がどれだけいるかは把握できません。地域の防災対策を把握しておき、防災イベントに参加しながら顔を覚えてもらったり、職員に同行避難を直接求めたり、自治会での議題にあげたり…など、とにかく声を届けておくことは重要かと思います。
環境省の資料「ペットも守ろう!防災対策」によれば、地元の獣医師会や団体、ボランティアと協力したペット同行避難訓練を実施する自治体も増えているそうです。地元でもこうした取り組みがあるか、確認しておくといいでしょう。
地震と異なり、風水害では、災害に備える猶予があります。地域での理解が得られず、同行避難が難しい場合、離れた地域に住む知人や親族がいれば、一時的に預けられるか相談しておくことも一つの方法です。緊急避難後、車やテントで猫との同居生活を視野に入れる場合は、そのための備えも必要です。
各自治体の防災計画等に、動物愛護管理がどのように記載されているかは、こちらも参考になります→pdf
行政の担当職員へお伝えしたいこと 〜「管理」と「愛護」双方の観点から
私が避難した先には、生後数ヶ月の赤ちゃんを不安げな表情で抱えるお母さんもいれば、受付の職員を叱り続ける高齢者の姿もありました。いっしょに避難した(おそらく)家族が、大喧嘩する場面もありました。自身も被災者でありながら、災害という恐怖から極限状態におかれた人たちの対応に追われ、そんな中でペットの同行避難に理解を示し、夜通し運営にあたってくださった職員の方々には、感謝しかありません。
今回の台風では、路上生活者の受け入れという課題(一部、誤解もあったようですが)も顕になりましたが、ここでは、「人権を守ること」と、災害弱者も集まる中での「公衆衛生上の管理」を、同時に考えなくてはなりません。地方公務員が削減されている中で、こうした災害弱者の「多様性」に対応した避難所運営を考え、限られた施設の中で衛生面を保ちながらアレルギー患者や乳幼児らを守っていく。非常に難しい課題であると推察します。
災害の種類や規模、地域の人口、避難所の数によっても、避難所運営は左右されます。自治体の職員や運営のサポートにあたるスタッフにとっては、悩ましさがあるのが現実ではないでしょうか。
行政の立場を考えれば、人の命と同等にペットの命を守るということはできないでしょう。ただ、それでもなお、「人の安全を確保する」という観点からも、各避難所への同行避難の実現に向けて、できるかぎり取り計らってもらえたら、とお願いしたいのです。
過去の災害において、ペットが飼い主と離れ離れになってしまう事例が多数発生したが、このような動物を保護することは多大な労力と時間を要するだけでなく、その間にペットが負傷したり衰弱・死亡するおそれもある。また、不妊去勢処置がなされていない場合、繁殖により増加することで、住民の安全や公衆衛生上の環境が悪化することも懸念される。このような事態を防ぐために、災害時の同行避難を推進することは、動物愛護の観点のみならず、放浪動物による人への危害防止や生活環境保全の観点からも、必要な措置である。
上記、環境省が取りまとめた「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」による「同行避難」の説明では、公衆衛生上の「管理」のメリットが強調されています。ですが、実際に多くの猫の飼い主さんからあがるのは、「何があっても猫といっしょにいたい」「家族だから置いて行けない」という強い思い入れ=「愛護」の声が強い傾向にあります。こうした心情から「置いていくくらいなら運命をともにする」という意見も多く、本当に危険が迫っているときでも室内にとどまり、人命が失われる恐れがあります。
とくに猫の場合、完全室内飼いが徐々に浸透し、犬のように散歩がないゆえ、外の世界に慣れさせる機会はあまりなく、せいぜい通院や帰省に同行させるくらいが一般的です。同行避難の不可がグレーのままでは、より一層、飼い主さんが災害に巻き込まれる危険度が高くなります。同行避難が浸透すれば、救出にあたるうえでの二次災害も防げるのではないでしょうか。
また、管理面についても補足します。当時、大きな論争が巻き起こったのでご存知の方も多いかと思いますが、東日本大震災後、福島第一原発の警戒区域内では、同行避難できずに多くの猫が取り残されました。もともとノラだった猫もいますが、時間の経過とともに2世、3世と子猫が生まれ、野生化が進んでいきました。
震災から1年半後に、捕獲・収容された猫たちがいる福島県・環境省のシェルターを訪問しましたが、人馴れしていない個体が多かったことなどの理由から、猫の譲渡は犬の4分の1程度しか進んでいませんでした(13年10月時点、犬の譲渡数:204頭、猫の譲渡数:53頭)。特殊な環境下ではありますが、災害に伴う逸走動物の対応は、ケースによっては中長期的な対応が必要になるという例としてあげさせていただきました。
では、どうする?
ここからは個人のアイデアです(見当違いや誤解があればご指摘ください)。
避難所でのペットスペースの運営にあたりペット防災の知識のある人員の手を借りたり、飼い主同士の協力を促しながら、対応の幅を広げていけないでしょうか。
各都道府県の動物愛護推進員の役割として災害時への協力が追加されていますし、最近では、「愛玩動物救命士」(一般社団法人全日本動物専門教育協会)、「ペット災害危機管理士」(全日本動物専門教育協会)など災害に備えた知識を習得するための資格もあり、ペット防災に対する意識が高い飼い主さんも増えています。猫メディアの編集者の感覚としても、大きな災害が起こるたびに読者の関心も増しています。
自治体によっては、地域の防災リーダーの育成に力を入れていますが、行政とペット防災に対する意識が高い住民や団体と連携できれば、職員の負担を減らすメリットがあるのではないでしょうか。
ペット防災のプログラムではありませんが、新宿区の取り組み「新宿区女性をはじめ配慮を要する方の視点でのワークショップ」が興味深く、先日、区外から参加しました。第1回目は座学や避難食の体験でしたが、今後、避難所となる学校の見学、カードゲームを使って避難所運営の疑似体験などをまじえ、LGBTや障害者も含めた住民が自分で避難所運営を考えていくという趣旨です。
これまで大きな災害を体験していない人からすれば、そもそも避難所とはどんなところか、といった段階から想像がつきにくいように思います。上記のような参加型のプログラムが増え、そこに飼い主も参加できれば、飼い主自身が避難所運営を主体的に考えていくことができるのではないでしょうか。
また、スペースの問題について、現在も、民間事業者や団体と災害時の協定を結んでいる自治体もありますが、避難所開設の協力に関しては、あまり数がないように感じます。(門外漢ですが、審査が厳しいのでしょうか? くわしい方いらっしゃいましたら教えてください )
2016年の熊本地震では、「竜之介動物病院」がSNSで被災者に呼びかけ、1500人とそのペット1000匹の受け入れを行うという前例をつくりました。竜之介先生のまさに熱意によって達成されたことで同じことは求めにくいですが、ペットの受け入れに理解のある動物病院や民間事業者、団体と連携を取り、非常時の避難所の開設協力を求めることはできないでしょうか。
動物愛護管理基本指針の見直しと、災害対策
改正動物愛護管理法(2019年6月公布)にあわせて、施策を進めていく指針となる「動物愛護管理基本指針」も見直されます。10月17日の動物愛護部会では、災害対策において考慮すべき点として以下の3点があげられたので、参考資料として引用いたします。
- 地域の特性の応じた平常時の準備(ペット連れ防災訓練の実施を含む)、事業者、飼い主等への周知等の必要な体制の整備を推進
- 地域の実情に応じて適切な対応がとられるよう、地域防災計画等における動物の取扱い等に関する位置づけの明確化、ペットの一時預かり、ペット連れ被災者への避難所、仮設住宅、復興住宅等での対応等に係る体制整備を推進
- 他自治体や民間団体と連携した広域的な協力体制整備の推進
地域の特性が大いに関わるであろう防災対策ですが、地域の中でできそうなことを、ぜひご検討ください。ペット防災を超えた防災計画全体を俯瞰しながらの、幅広い視点による整理が必要かと思います。さまざまな角度からの意見をすり寄せながら、議論が進んでいくように願っています。
適正飼養の底上げも、同時進行で
当然ながら、避難所では飼い主さんがルールを守り、猫をしっかり管理していく姿勢が大切です。それ以前にふだんから、猫を飼う上での適正飼養の全体的な「底上げ」も必要になってくるのではないでしょうか。
環境省のガイドラインには、猫と同行避難するうえで必要なしつけ・管理として、以下のチェック項目が記載されています。
□ケージなどの中に入ることを嫌がらないように、日頃から慣らしておく
□人や他の動物を怖がらないように慣らしておく
□決められた場所で排泄ができるようにする
□各種ワクチンを接種する
□寄生虫を駆除する
□不妊去勢措置を行う
□できる限り室内で飼養する(放し飼いだと災害時に行方不明になることが多い)
実際、どれくらいの猫の飼い主さんが災害時を想定した準備ができているのでしょうか? 以下、アイリスオーヤマが実施した「猫の国勢調査2019」の結果を引用させていただきます。
ペット用の災害対策をしている?という問いに、「している」41.0%(401人)「していない」59.0%(577人)と、していない人が多い結果でした。各対策別を見ると、さらに低くなっています。
「ペット用のフード・飲み水を備蓄している」35.8%(350人)
「避難用のキャリー・ケージを持っている」29.9%(292人)
「トイレ用品を備えている」 27.2%(266人)
「ワクチン接種・ノミダニの予防をしている」 21.3%(208人)
私の避難先では、リードと、猫が過ごすケージの持参を求められました。愛猫を守るための備えは、こちらを参考にしてください。→「【獣医師監修】台風接近中 。猫を連れて避難するときに持ち出したい物」
ワクチン未接種の猫や、ノミダニが付着している猫が来た場合、飼い主同士でもトラブルになるでしょう。仮に屋内飼育がOKの避難所でも、飼い主側の問題が発生したら次はNGとなる可能性もあります。定期的なワクチン接種や健康診断、健康相談で通院になれさせておくことは、外でのストレスを軽減するメリットもありますので、ぜひ考えてみてください。
外飼いの猫が多く糞尿被害があり、猫が原因による公衆衛生上の問題がある地域では、猫という生き物自体に対して住民の忌避感が高まっているかもしれません。こうしたケースでは、避難所に猫を連れていくとトラブルが起きやすいと想像もできます。猫を感染症や事故から守るためにも、非常時にいっしょに逃げるためにも、ふだんの室内飼いにはメリットがあるといえるでしょう。
避難所での適切なお世話と、環境をできる限りクリーンに保つ努力も重要です。たとえば、小学校の教室に避難となった場合、動物の毛が少しでも残っていることで、アレルギー反応に苦しむ子供がいるかもしれません(…と、この原稿を書いている間に、小学校の先生からの悲痛なツイートが…)。
避難生活は、床も硬くてほとんど眠れなかったり、ストレスを受ける動物や家族の心配もあり、飼い主さんも疲労困憊で、災害が落ち着いたらすぐにでも家に帰りたい心理にかられるかもしれません(私がそうでした)。家に戻る前も、ペットを連れながら清掃できる範囲は限られますが、それでも、誠意をもって糞尿の清掃や、残された毛の除去などをすることが一般化して周知されれば、避難所の受け入れ体制も幅が広がってくるのではないでしょうか。
必ずしも、同伴避難ではない
私の避難先では、人の避難スペースは別にも設けられていましたが、どのペットにも飼い主さんが付き添っており、結果的に「同伴避難(避難所で飼い主がペットといっしょに過ごすこと)」となりました。1泊だけの緊急避難でしたので、緊張とストレスでペットの排泄数も多くなかったのでしょう。食べ物や糞尿のにおいは、それほど気になりませんでした。
同伴避難には、愛するペットをそばで守ってストレスケアにもあたれるメリットがありますが、緊急避難から避難生活へと移行して行った場合を考えると、異種動物が多数集まる空間では、飼い主自身もニオイや鳴き声に悩まされたり、感染症や健康上の不安があがってくると考えられます。
過去の災害の多くの避難所では、ペット用スペースは多くが屋外だったと、ペット防災の専門家からは聞いています。私の地域でも、今回の風災害では屋内避難でしたが、防災訓練では基本的には「屋外飼育」というお話でした。東日本大震災で、宮城県内に設置された動物救護本部でボランティアにあたったときは猫たちをプレハブ小屋で管理していましたが、こうした対応が可能としても、災害発生から時間がかかるでしょう。避難所でともに過ごせない覚悟も持っておき、離れていても過ごせるしつけや準備、難しい場合の代替案は考えておいたほうがいいと感じました。
避難所は、異なる動物観をもつ人たちが丸ごと逃げてきて、生活をともにする場所、です。「地域の中の飼い主」「地域の中の愛猫」という視点も持ちながら、避難者の多様性を理解して互いを思いやり、それぞれの立場から前向きに対応を考えていけたら、と願います。
(文/本木文恵)
掲載日:2019年10月18日
*今後の参考にしていただく目的で体験談をまぜていますが、避難先は、ほかの避難者や自治体の担当者等への配慮からも公開していません。ご了承ください。