前回の記事から続きます。

 

地域に住み着いたノラ猫に不妊・去勢手術を行い、適切にお世話をしていく「地域猫活動」。全国に知られる地域猫ボランティア団体「ねりまねこ」の亀山嘉代さんによる講演を”Web版”としてまとめた第2回目をお届けします。地域猫活動で直面する”難しさ”や、乗り越えるための必要なことなど、踏み込んだ内容です。引き続き、元地域猫のカッパちゃんを愛でながら、読み進めてくださいませ〜!

 

地域猫時代のカッパちゃん

 

そして、今は亀山さん夫妻の飼い猫に。室内の生活で、表情もすっかり穏やか

 

 

行政の後ろ盾で、地域猫活動はうまくいく

 

(以下、亀山嘉代さん)練馬区の地域猫活動の特徴的なところは、実際の対策をするのは「住民自治」であること。「地域の問題は地域で解決する」ということで、一人ひとりの住民が課題解決に挑みます。

 

私たちは「ねりまねこ」という団体を名乗っていますが、練馬区全体ではなく、私が住んでいる居住区を中心に活動し、街の餌やりさんなど約100人の協力してくださる方達といっしょに街のノラ猫対策を行っています。こうした私たちの活動に対して、練馬区は「地域猫活動は市民生活向上のための公共的なもの」として、公共性を担保してくれます。すると、街の人たちに「市民生活向上のための活動である」と認識してもらえるので、ボランティアが責められることにならないわけです。

 

日本中で私たちと同じ活動をしている方たちがいます。活動の中身自体は全く同じですが、行政が後ろ盾になっているかどうかで、うまくいくか、トラブルにならないかというのは大きく違ってきます。行政の力を借りて非常にスムーズにいっているのが練馬区の例なんです。

 

地域猫の印「耳カット」。オスは右耳、メスは左耳をカットすることが多いです。カッパちゃんはオス

 

 

捕獲よりも、不妊・去勢手術よりも大変なのは…

 

練馬区による支援は、「手術費用の助成」「捕獲器の貸し出し」「町内・自治会との調整」「活動のアドバイス」があります。お金や捕獲器の話は、自分たちでなんとでもできるんです。何ともできないのは、「町会・自治会との調整」ですね。

 

地域社会の理解と協力を得たうえで、対策を進めていく地域猫活動ですが、いくら一生懸命やっているボランティアであったとしても、街の中にいきなり乗り込んでいって「こういう活動をします!」と言って、いきなりみんなが“理解と協力”をするわけではないんです。

 

では、どうするのか。練馬区では、保健所の方が、最初に町内会長のところにいっしょに説明に行ってくれます。「練馬区として、ノラ猫の対策はこうしていて、私たちの地域猫対策はこういった形である。環境省も、東京都も、練馬区も推進している事業であって、今回たまたまこの町内の住民である私がボランティア活動として参加しますよ」といった活動のご説明をするんです。

 

地域の皆さんからの合意や、町内会の承認のハンコをもらうなど、難しいことはしません。「これは区の事業であり、町内会にもご了承いただいた活動です」と住民にお知らせをするだけで、理解と協力をいただけて非常にスムーズにいきます。

 

 

 

地域猫活動は、保護活動ほどのコストがかからないので、進めやすい

 

私たちの地域猫活動は、無理なくできる範囲で、行政・町内会を後ろ盾に広報をして、街の人を巻き込んで進めています。約100人の方に協力していただいていますが、100人が私たち夫婦のように捕獲器を置いて回っているわけではなく、「あそこにたくさん猫がいるよ」「あそこは餌やりさんがいるよ」「自分が3匹面倒みてるけど、うち2匹はまだ手術が終わってないよ」といった情報提供をしていただいています。あるいは、私たちの捕獲器をお庭に置かせていただいて、捕まったら連絡をもらったり、一晩だけ玄関において預かってもらってから、私たちが車で動物病院に運んでいます。

 

不妊・去勢手術にかかる費用は、街の皆さんにも負担していただいています。「ねりまねこ」の事業規模の300万円は、私のお財布から出しているわけではありません。たくさんの方からのご寄付をもとに成り立っています。

 

練馬区の地域猫ボランティアは、「猫の保護はしないこと」とあります。産ませず、猫を減らすことが最優先。1匹の猫を保護して、健康にして、よい譲渡先を見つけるまでは時間もエネルギーも必要です。そうした保護活動よりも、TNRのほうがコストが安く、どんどん進められます。

 

地域猫のカッパちゃんに用意してあげた発砲スチロールベッド

 

さらにぬくぬくになった猫ハウス

 

 

ノラ猫が嫌われないように、街の人たちを安心させてあげよう

 

よく餌やりさんが槍玉にされるのですが、餌を与えるから猫が増えるのではなく、与えると猫が「集まって」くるのです。増えるのは、不妊・去勢手術をしないからです。猫に起因する苦情には、「餌やりのマナーが悪い」「糞尿」「子猫が生まれ増える」「ケンカ・鳴き声」があります。これらによって、生活環境が悪化していくんですね。どんなに猫が好きな人であったとしても、糞尿が好きな人はいません。一部の猫好き以外は、嫌いになって当たり前。なので、ノラ猫が嫌われないように対策をして、住民を安心させてあげます。

 

何よりも重要なのは、地域社会の理解を得ること。ノラ猫の適正な管理である「不妊・去勢手術」「マナーを守った給餌」「糞尿の清掃」をしながら、猫の数を徐々に減らすことで、被害も減っていきます。

 

不妊・去勢手術は、子猫を増やさないだけでなく、病気の予防、喧嘩、発情の鳴き声、尿の臭いが軽減できます。

 

給餌は、決まった時間に、ご理解を得た場所で、適正な量を与え、食べ残しはきれいに片付ける。街の人たちは不愉快な思いをせずに済みますので、餌やりさんに対する見方も変わっていきます。

 

糞尿の対策については、猫が排泄できる場所を作ってあげましょう。猫が排泄物を埋められる場所を用意したり、プランターをおいてトイレ代わりの場所を作る。あるいは、どうしても猫が苦手できて欲しくないようなら、超音波機器やガーデンバリアで、猫が来ないようにしたり、いろんな対策をすることができます。

 

 

プランターの猫トイレ

 

(文/本木文恵)

カッパちゃんと地域猫の写真は、ねりまねこ提供

取材日:2018年7月21日

 

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NPO法人ねりまねこ

亀山嘉代さん、亀山知弘さんの夫婦2人での活動。練馬区と協働の地域猫活動に加え、登録ボランティアのアドバイザーとして後進の育成、ネットや講演活動による地域猫活動の普及・啓発、保護・譲渡活動などを行っている。

*公式HP:https://nerimaneko.jimdo.com
*blog:『ねりまねこ・地域猫』https://ameblo.jp/nerimaneko/

 

★2018年8月16日(木)~20日(月)、京王百貨店で開催のイベント「みんなイヌ、みんなネコ」では、カッパちゃんの写真や、イラストレーターのさかざきちはるさんが描くカッパちゃんのパネル(sippo×『白黒さんいらっしゃい』コラボ)が展示されるそうです!

●主催:京王百貨店 ●場所:京王百貨店・新宿店(7階大催場)●日時:10時~20時 (※最終日は18時)