「地域猫活動」をご存知でしょうか? おおざっぱに言うと、地域に住み着いたノラ猫に不妊・去勢手術を行い、「地域猫」として適切にお世話をしていくこと。ボランティアだけではなく、住民や行政とも協力しながら、人と猫とが共生する街づくりを目指す活動です。ノラ猫の数も、ノラ猫に対する苦情も減らすことができる。殺処分される猫を減らすための活動として、近年、全国で盛んに取り組まれています。

 

今回の記事では、夫婦2人だけの活動ながら今や全国に知られ、地域猫活動の講師として引っ張りだこのボランティア団体「ねりまねこ」の講演をまとめました。帝京科学大学で開催された「アニマルラブフェスタ」のシンポジウムでの内容をほぼそのままに、来場できなかった方にも読みやすいように”Web版”として構成しています。

 

講演は20分間とは思えないほど凝縮された内容で、「そもそも地域猫活動って何?」「どう始めたらいいの?」といった素朴な疑問を感じている方にとっても、おそらくすでに地域猫活動の難しさを実感している方にとってもためになりそうな情報がぎっしり。(1つの記事にまとめるには文字数が多くなってしまったので!)3回に分けて、元地域猫であり、今は亀山さん夫妻の愛猫であり、全身タイツっぽい柄(!)の「カッパ」ちゃんの愛くるしい写真とともにお届けします。

 

※カッパちゃんの過去・現在は、朝日新聞のペットメディア「sippo」で記事を書かせていただいたので、併せてご覧くださいませ。→「全身タイツ? ブログで大人気のカッパちゃんは元地域猫」

 

 

地域猫時代のカッパちゃん

 

 

7年半で地域猫の数は、半数以下に

 

(以下・亀山嘉代さん)私たち「NPO法人ねりまねこ」が活動している東京都練馬区は、東京23区で1番緑が多く、2番目に人口が多い。自然豊かな郊外の住宅地で、人も猫もたくさんいる街です。

 

2009年、練馬区が「地域猫推進ボランティア」の公募を開始し、区としての「地域猫制度」を始めました。その時にとても気になったんですけど、一度ボランティアなんかに手をあげた日には、もう街中のよろず相談が舞い込んで、猫を押し付けられて大変なことになるんじゃないかなと怖くて。この年の公募には申し込みをしませんでした。

 

ところが翌2010年、とある“事件”があり(後述)、否応なく応募せざるを得ない状況になったのが、私たちのボランティアのスタートです。2年後(2012年)には、「東京都動物愛護推進員」に推薦していただき、さらに2年後(2014年)に、NPO法人を設立しました。現在、ボランティア活動歴は8年。会員約40人の活動です。NPO法人を名乗っているので大きな団体のように見えますが、実際、自主的な活動は夫婦だけでやっています。

 

講演する亀山嘉代さん(右)と、一番前の席で聴講する夫の知弘さん

 

活動の規模は、TNR(※)を、大体年間100頭、これまでにだいたい900頭くらいやっています。それとは別に保護・譲渡活動を年間70頭くらい。これまでに500頭くらいの猫たちを里親さんのもとへお届けしました。

※ノラ猫の繁殖を防ぐため、捕獲器で捕まえ(Trap)、不妊・去勢手術を施し(Neuter)、もといた場所に戻して(Return)、地域猫として見守る取り組みのこと

 

事業規模はざっくりいうと、300万円入ってきて、300万円使っている。NPO法人なので、3月決済で、毎年収支を東京都に提出しています。お金の使い道は、ほとんどが動物病院への支払いです。

 

私たちがいう地域猫対策の成果というのは、どれだけ不妊・去勢手術ができて、猫が減ったかというものです。述べ7年半(平成22年8月〜30年3月まで)で地域猫として登録してきた数は、785頭から313頭に減りました(472頭減)。7年半前のノラ猫は寿命で亡くなったりしていますので、不妊・去勢手術をしていれば自然に数は減っていきます。

 

カッパちゃんもかつては練馬区の「地域猫」として登録されていました

 

 

地域猫活動を始めたきっかけは“夫を守るため”だった

 

ボランティアの地域猫活動を始めたきっかけは、とある一つの事件です。何が起きたかというと、庭にやって来た生後半年ほどの小さなメス猫が、3匹の子猫を産んでしまったんです。都会では「餌やりは悪者」「野良猫は悪者」という社会の”偏見”がある。なんとなくわかっていたので私は餌をやらなかったのですが、夫がわりと博愛の人で、「かわいそうじゃないか」と、うちの飼い猫の餌をあげていたんですね。

 

この母猫をどうしたら守れるだろうか。そして「餌やりの夫が近所から罵られたら大変だ! 困った夫をどうやったら守れるか」という“裏ミッション”もあって、この活動に入っていきました。

 

地域猫活動のきっかけとなった母猫(右)。亀山さんに賛同したご近所さんが動物病院へ連れて行き、不妊手術をしてくれたそうです

 

結論から言いますと、子猫たちは、交通事故や病気などで、みんないなくなってしまいました。子猫の生存率は低く、ノラ猫の住む世界は非常に過酷です。一方で、母猫は地域猫として面倒をみてもらっていて、現在は9才です。ある程度成長して生き残った猫たちなら、その地域環境の中できちんと餌をもらい、適正に管理されれば、9才くらいでも元気に生きていられます。

 

初めて亀山さん宅の庭に現れたときのカッパちゃん

 

毛の汚れが、ノラ猫生活の過酷さを物語っています

 

 

そもそもノラ猫ってどこから来るの?

 

ノラ猫の問題は、日本中で共通です。「ノラ猫は人が飼育放棄した生き物。餌をあげなきゃかわいそう」という餌やりさんがいる。一方で、「猫のフンで大迷惑。餌やりは禁止」と思っている人たちもいる。これは、お金持ちの自治体だろうが、貧乏な自治体だろうがみんなおんなじですね。

 

でも、そもそも外の猫はどこから来たんでしょうか。もともと昭和の初め頃は、猫は放し飼いだし、今のように動物病院もないので、不妊・去勢手術もされていませんでした。迷子になったり、捨てられたりも当たり前で、猫が外にいたのも当たり前。そんな猫たちの子孫が、今、ノラ猫として私たちの周りにたくさんいます。

 

地域猫になる前の若かりしカッパちゃん。偶然出会っていたことがあとからわかったそう

 

目指すのは、ノラ猫ゼロより「猫のトラブルゼロ」

 

そして残念な話なんですが、ノラ猫の発生源というのは地域住民なんです。飼い切れなくなって飼育放棄をしてしまう人がいる限りは、街に猫は供給され続けます。なので、私たちの目標は「ノラ猫をゼロ」にすることではなく、「猫のトラブルをゼロ」にすること。人と猫とが共生できる街づくりを目指していく。これが現実的な対策です。

 

猫トラブルがあったときの解決策として、「行政が殺してしまえばいい」「保健所に連れて行け」という考え方が昔はされていましたが、今は、行政は殺すための引き取りはしません。駆除のために動物を捕まえて殺す、という対策はしていないのです。

 

そこで、飼い主がいない猫の問題を「地域の環境問題」として、住民・ボランティア・行政が協力し、猫たちを適正に管理し、暮らしやすい街づくりを目指す「地域猫活動」が必要になってきます。

 

(文・撮影本木文恵

※カッパちゃんと地域猫の写真は、ねりまねこ提供

取材日:2018年7月21日

 

次の記事に続きます。

 

地域猫活動をうまく進めるのに一番大切なこと 「ねりまねこ」講演(2)

 

NPO法人ねりまねこ

亀山嘉代さん、亀山知弘さんの夫婦2人での活動。練馬区と協働の地域猫活動に加え、登録ボランティアのアドバイザーとして後進の育成、ネットや講演活動による地域猫活動の普及・啓発、保護・譲渡活動などを行っている。

*公式HP:https://nerimaneko.jimdo.com
*blog:『ねりまねこ・地域猫』

 

★2018年8月16日(木)~20日(月)、京王百貨店で開催のイベント「みんなイヌ、みんなネコ」では、カッパちゃんの写真や、イラストレーターのさかざきちはるさんが描くカッパちゃんのパネル(sippo×『白黒さんいらっしゃい』コラボ)が展示されるそうです!

●主催:京王百貨店 ●場所:京王百貨店・新宿店(7階大催場)●日時:10時~20時 (※最終日は18時)