殺処分後に焼却された犬や猫の骨を細かく粉状にし、土に混ぜて、花の種を植える。そして開花した「命の花」を配布しながら、殺処分の現状を伝えていく――。

 

青森県十和田市にある農業高校「三本木農業高等学校」。動物科学科で、2年生から選択できる研究室のひとつ「愛玩動物研究室」の生徒たちによって、「命の花プロジェクト」は始まった。開始当時の青森県の殺処分数は、犬904頭、猫2336頭(※だったという。そんな動物たちの命が失われていく社会問題を解決したいと試行錯誤し、たどり着いた活動だ。当初のメンバーは卒業したが、現在も後輩たちに受け継がれ、2018年で7年目となる。

※平成24年度。数値は、青森県動物愛護センター「平成27年度  事業概要」より引用

 

都内で開催のイベント「ネコ市ネコ座〜ホゴネコ文化祭」(7月14〜16日。主催は、保護猫カフェ「ネコリパブリック」)で行われた、現在の3年生による講演をもとに活動内容をレポートする。

 

左前から時計回りに、日野澤義子先生、豊川千裕さん、山田幸奈さん、小川理乃さん、赤坂圭一先生(ほか1名の生徒が参加)

 

今回の「ネコ市ネコ座」は、東京ドームシティ内「Gallery AaMo」で3日間にわたって開催された

殺処分された犬猫の骨が「ゴミ」となることにショックを受けた

 

「殺処分された犬や猫たちのもっと長く生きたかったという思いを、花に命を与えることで、遂げてほしい。この活動を通じて、命の尊さと、殺処分の現状を訴えたいと考え、活動しています」(3年生の豊川千裕さん、以下同)

 

そもそものプロジェクトの始まりは、青森県動物愛護センターに施設見学に行き、センターのスタッフに、犬や猫たちが置かれている辛い現実を教えてもらったことだった。焼却炉の裏に移動すると、積み上げられた紙袋があった。その中に入っていたのは、殺処分されて焼却された動物たちの骨。「事業系一般廃棄物」つまり“ゴミ”と同様に扱われていた。

 

「人間の骨はゴミとして扱われることはありません。一方で、犬猫たちが殺処分されたうえに、土に還ることさえできない現実に、大きなショックを受けました」

 

高校生として、命と真正面から向き合いたい。そんな強い想いから何度も思い悩み、話し合いを続けた結果、「命の花」の普及活動にたどり着いた。

 

豊川千裕さん

 

「2度殺しているんじゃないかな…」という葛藤も

 

「命の花」は、センターから譲り受けた骨をレンガで細かく粉状にする作業から始まる。すべて手作業で行うことにこだわっているという。

 

「人間の都合で飼えなくなって殺処分されてしまった動物たちを、最後は温かい人の手で土に還したいという思いがあるからです。骨を細かくした時の感触が、今でも忘れられません。くやしくて、辛くて、たまらない気持ちで、作業に当たりました」

 

殺処分された犬猫の骨。会場のブースで展示された

 

豊川さんは、初めて骨を細かくしたときの感想をこうも語った。

 

「最初は、骨だけど、『2度殺しているんじゃないかな…』と思って。躊躇することもありましたし、本当にみんなで泣きながらやっていたので」

 

粉状になった骨と培養土をまぜて、命の花専用の土を作る。土をポットに入れて種を蒔く。花の品種は、春にマリーゴールド、秋用にはケイトウ。ほかにも花言葉を調べながら新しい花を選び、1年中栽培を続けている。

 

「芽が出て成長し、約2ヶ月後には念願の花が咲きました。この花たちを見ていると、動物たちが生き返ったようで。本当に嬉しい気持ちになりました

 

命の花のための土。粉状の骨と培養土を1対9の割合で混ぜる

 

ネコ市ネコ座で配布された「命の花」

支援の輪は広がり続けた

 

最初の年に、地元のイベント「十和田わんわんフェスタ」や老人介護施設、保育園での「命の花」の配布。その後も中学校の道徳の授業でゲストティーチャーを務めたり、街の花壇整備など、地道な活動を続けるうちにメディアにも多数取り上げられ、書籍化も相次ぐ。「アニマルウェルフェアサミット」や「ちよだ猫まつり」など都内の大規模なイベントにも招かれるように。

 

イギリスの動物愛護団体からの補助金も正式決定する。初めは小さかったプロジェクトだが、国外にまで支援の輪が広がった。

 

「日本全国、そして世界から応援の声が寄せられ、私たちの大きな励みになっています。一方で、ご批判の声をいただくこともありますが、その意見を真摯に受け止めつつ、自分たちのできる活動をしていきたいと思います」

 

土に骨が入っているなんて気持ち悪い。そんな声が届くこともある。

 

「くじけそうになるんですけど、本当に辛いのは殺処分されて亡くなっている子達で。その子たちの思いをつなげていくために、伝えていかなきゃいけないなと思っています

 

質疑応答には山田幸奈さんも参加。犬猫への想い、初めて骨を細かくしたときの悲しみを慎重に語る

 

現在は、3年生が9名、2年生10名が研究室に所属。中には、「命の花プロジェクト」への参加を目的に、県外から進学したメンバーもいるという。

 

「平成27年度の青森県の殺処分数は、犬272頭、猫968頭(※)となり、少しでも殺処分の減少に貢献できたのではないかと思います」

※平成28年度は、犬137頭、猫596頭(数値はともに青森県動物愛護センター「平成29年度  事業概要」より引用)

 

研究室には、現在推定7才になるオスの保護猫も1匹。”後ろ姿が豆大福みたいな”ニッシー。生徒たちで交代でお世話をしている。

 

ニッシーくん。もともとは校門前に捨てられていたそう(写真提供:日野澤義子先生)

 

新しいプロジェクトにも挑戦していく。動物の正しい知識や、マイクロチップの普及を目指した活動。学校内のノラ猫にもTNR(※)を施す。

※ノラ猫の繁殖を防ぐため、捕獲器で捕まえ(Trap)、避妊・去勢手術を施し(Neuter)、もといた場所に戻して(Return)、地域猫として見守る取り組みのこ

 

イベントで配布しているパンフレット

 

カラープリントではなく、生徒たちが1冊ずつ色を塗っている

 

「動物たちは人を裏切ることはありません。人が動物を支配するのではなく、動物の個体の特性を理解して接することで、望ましい共生社会になるのではと考えます。これからも人と動物がともに生き、幸せに暮らしていける社会を目指して、動物に関する問題に対し、高校生として自主的に調査、計画、実行していきたいです。ご指導、ご協力をお願いいたします」

 

(文・撮影/本木文恵)

取材日:2018年7月15日

 

 

ネコ市ネコ座の会場